夫の実父から精子の提供を受けて体外受精を実施し、118人の赤ちゃんが誕生したとする報告を、長野県の医師が31日の日本受精着床学会で発表する。日本産科婦人科学会の見解では、体外受精は事実婚を含む夫婦間に限定しており、第三者からの精子提供による体外受精については言及していない。平成15年4月にまとめられた厚生科学審議会の「精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」では、祖父からの精子提供による体外受精は認められていない。
子どもにとって祖父が血縁上の父となることで、家族関係が複雑になる可能性がある。子どもが何らかの障害を持って生まれた場合、必ずしも良好な家族関係を築けるとは限らず、子ども福祉につながらない事態も起こりうる。もう一つは、法的な父子関係の問題である。性同一性障害カップルがAIDにより妻が出産した場合、嫡出子とみなされないとの判決もあり、現行法では夫婦間の嫡出子とみなされない可能性もでてくる。わが国においては、知らない第三者よりも身内からの精子提供を望む夫婦が少なからず存在するが、家族関係が複雑になるのではないか、生まれた子どもが自分自身の出自を受け入れることができるか、民法772条の第一項の夫の子としての推定が及ぶかなど、父親の精子を用いた生殖補助医療には大きな問題が残る。
(吉村 やすのり)