生殖医療と多胎

多胎の出産率の年代別推移を検討すると、1996年の日本産科婦人科学会の会告により移植胚数を3個までと制限して以来、3胎以上の超多胎の出産率は低下したが、双胎の頻度は変わらず、ARTの技術の向上によりむしろ実数は増加していた。

そのため、2008年4月に「ARTの胚移植において、移植する胚は原則として単一とする。ただし、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2胚移植を許容する。治療を受ける夫婦に対しては、移植しない胚を後の治療周期で利用するために凍結保存する技術のあることを、必ず提示しなければならない」との見解を出した。これら会告の遵守により、2010年の多胎妊娠率はIVF-ETで5.4%、ICSIで5.2%、凍結融解胚を用いた治療で4.6%まで低下している。

わが国においては、世界に先駆けて多胎妊娠を防止するために移植胚数の制限に積極的に取り組んできた。わが国の凍結胚技術の進歩、生殖医療従事者の努力もあり、近年多胎率が急激に減少しているのは喜ばしいことである。現在、わが国の多胎妊娠率は5%前後であり、20%前後の欧米に比して極めて低率であることは注目に値する。このように、国のガイドラインや法律を持たないわが国の生殖医療において、日本産科婦人科学会の会告の果たしてきた役割は至大なるものがある。

(吉村やすのり)

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