日本の民法は、婚姻時に夫または妻のいずれかの氏を選択する夫婦同氏原則(民法750条)を規定している。これにより、婚姻期間中は公文書において夫婦が異なる氏となることはない。そのため夫婦がともに婚姻前の氏を継続使用しようとする場合、婚姻届を提出せず改氏を回避する事実婚や、婚姻届を提出した上で片方が旧姓を使う通称使用などの手段を取ることがある。
婚姻前の女性にキャリアがあり、婚姻後に職業上名前が変更できない場合がある。この場合、通称の氏の使用が公的に認められないことがある。また、配偶者の遺産を相続する場合、事実婚であると不都合が生じる可能性がある。
こうした状況の中で、婚姻時に改氏に不都合を訴え、夫婦同氏の原則の緩和を求める声もあり、選択的夫婦別氏制度の導入など民法750条の改正が提案されている。しかしその一方で、夫婦同姓を望む声も強い。
これまで提案されてきた夫婦別性導入のため民法改正の試案は以下の6種に分類される。
- 原則夫婦別性
別性を原則とし、同姓も認める - 選択的夫婦別姓(子どもの姓を統一しない)
婚姻的に同姓か別姓かを自由選択、子どもの姓は出生時に決め、兄弟姉妹の姓を別々にすることを認める - 選択的夫婦別姓(子どもの姓を統一するもの)
子どもの姓は婚姻時に決め同一とする - 例外的夫婦別姓
夫婦別姓を望む場合には、例外的に認める - 家裁許可制夫婦別姓
夫婦同姓を原則として、別姓は家裁による許可を得る - 通称使用公認制
夫婦同姓の原則を堅持し、通称使用を法律で認める
夫婦形態にも多様性があり、選択的夫婦別姓かあるいは通称使用公認制がよいのではないかと思われる。いずれにしても夫婦の意向が尊重されるべきである。
(吉村 やすのり)