妊娠中に超音波検査により、胎児に解剖学的な異常があり、重度の障害や将来の知的発達など、特に神経系の問題が生じることが予想される場合があります。たとえば中枢神経系の異常として、全前脳胞症や先天性水頭症などは胎児超音波検査にてしばしば発見されます。前者は染色体や遺伝子などの異常による脳の形成障害であり、基本的な治療は困難です。水頭症の原因は複数ありますが、大脳実質が非常に薄くなっているような先天性の高度の水頭症では、胎児期に障害がすでに進行しており、出生後に水頭症として脳室腹腔シャント術などによる治療をしても重度の後遺症が残ることが予想されます。先天性心疾患においても、他に消化管の異常や子宮内発育不全を伴う場合には、染色体異常に起因する可能性があります。心臓や消化管の異常に対しては手術をすれば児を救命することはできますが、生後後遺症により重篤な発達遅滞や知的障害がおこる可能性も否定できません。
すべてのクライエントは、超音波検査を受ける段階では健常児が生まれ、将来普通の生活が送れることを想定しています。そのため、重度の障害や厳しい予後が予想される病態が出生前診断され、告げられた場合には、心理的に大きなストレスがかかります。クライエントは出生前診断などをせずに、予後の重篤な疾患であることを妊娠中に告知されなかったほうが良かったと感じるかもしれません。超音波検査で重篤な障害や出生後の予後不良が予想される疾患が発見された時、医療者はクライエントや家族の気持ちを十分に考慮に入れながら、慎重に時間をかけて説明することが大切となります。
Ⅱにつづく
(吉村 やすのり)