東京の出生率0.99に憶う

厚生労働省の発表による2023年の合計特殊出生率で、首都圏1都3県はいずれも過去最低を更新しています。東京都の出生率は前年比0.05ポイント減の0.99、埼玉県は同0.03ポイント減の1.14、神奈川県は同0.04ポイント減の1.13、千葉県は同0.04ポイント減の1.14で、2015年頃をピークに減少が続いています。都によると、2023年の出生数は8万6,347人で8年連続減少しています。総人口も2030年をピークに減少に転じる見通しです。
都は、2023年度から、都内に住む0~18歳の子どもに1人あたり月額5,000円を給付する018サポートを始めました。2024年4月からは私立を含めて高校授業料を実質無償化しました。第2子の保育料無償化、将来の妊娠・出産に備える卵子凍結に対する助成を導入しています。しかし、いずれも効果的な施策とは言えない状況です。教育費など子育て世帯にのしかかる負担を減らし、社会全体で子育てや出産を後押ししていますが、少子化傾向の反転は見通せません。
出生率の低下はコロナ禍で外出自粛が広がり、出会いが減ったことが響いた面もあります。2020~2023年の首都圏の婚姻数は、その前の4年間に比べ15%減少しています。わが国では、婚外子が諸外国に比べて極めて少なく、婚姻していないと子どもを持ちにくい状況にあり、未婚化が少子化の大きな要因と考えられています。しかし、首都圏では結婚しても子どもを持たないカップルが増えており、晩婚化も相まって少子化に拍車をかけています。生殖年齢にある女性人口が多い首都圏での出生率の低下は、わが国の少子化にとって大きな問題です。
地方から首都圏への若い世代、特に女性の流出をいかに防ぐかが重要となってきます。若い女性が出生率の低い東京に流出することを問題視し、都市部を批判する事をよく聞きます。都市部の少子化対策が大切なことはもちろんですが、地方の地域社会にも問題が残ります。地方において、女性や若者が暮らしやすく働きやすいか、偏見や決めつけはないか、性別役割分担意識はないか、地方に住みやすさや暮らしやすさがなければ流出は止まりません。地域社会の旧弊を見直す努力が地方には求められます。少子化対策とジェンダー平等は密度に関連しているという問題意識を、地方の首長に浸透させることが大切です。

 

(2024年6月6日 日本経済新聞・東京新聞)
(吉村 やすのり)

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