厚生労働省の6月の発表によれば、東京都の合計特殊出生率は0.99と全国の都道府県で唯一1を下回りました。全国平均は1.20と過去最低となっていました。大学や企業が集まる東京には、進学や就職で多くの若い独身の女性が転居するため、分母が膨らみ出生率は低くなります。2023年に15~24歳の女性は7万2千人が東京に転入しています。転出を差し引くと約4万人の純増です。この長年続く傾向がなければ、東京の出生率は今も1を上回っていたはずです。
加えて、勉学や仕事に力点を置く人が東京に行く傾向が強いため、結婚や出産の年齢が高くなりがちです。国立社会保障・人口問題研究所によれば、女性の50歳時点の未婚率は、東京都が23.8%で、全国平均の17.8%を上回っています。
一方、東京の過去10年間の出生数の減少率は2割程度で、都道府県で最も緩やかでした。2020年の結婚している女性1千人あたりの出生数は76.4人と、全国平均の74.6人を上回っています。経済的に余裕のある夫婦は子どもが多く、財政力のある東京都の子育て支援が充実している面もあります。
都心は家賃や生活費が高く、収入によっては出産を機に郊外に移り住む世帯は多くなっています。2023年の総務省の統計によれば、東京からの流出超過数は、年齢別で0~4歳が最も多くなっています。0~14歳の子どもの転入超過数が多い自治体は、さいたま市がトップで、東京都町田市、神奈川県茅ケ崎市が続いています。
地方では、高齢化や過疎化が進んでいる一方、合計特殊出生率が改善している自治体は少なくありません。しかし、出生率は増加しても出生数は減少しています。若い女性が都市に転出したため、分母となる女性の数が減って、出生率が見かけ上改善したに過ぎません。地方における雇用の確保は大切であり、若い世代の流出を避ける施策が必要となります。少子化の解消には大きな複数の課題を、地域の実情に合わせながら多角的な視点で取り組むことが必須です。
(2024年7月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)