HPVワクチンキャッチアップ接種の低迷

子宮頸がんは、若い女性では乳がんに次いで多いがんです。国内では毎年約1.1万人が罹患し、約2,900人が亡くなっています。治療のために子宮を摘出する30代以下の女性も、年間約1千人もいます。1990年代頃までは40代以上の女性が多かったのですが、2000年代に入ると20~30代で罹患する人が増えています。HPVは性交渉で感染するため、ワクチンは性交渉を経験する前に接種することで感染予防の効果が期待できます。
HPVは200種類以上あり、少なくとも15種類で子宮頸がんを引き起こすことが分かっています。性交渉を通じて、女性の多くが生涯に1度は感染します。感染しても自然に消滅することが多いのですが、一部の人では感染が持続し、数年から数十年かけて子宮頸がんになることがあります。HPVワクチンは、子宮頸がんの原因になる種類のHPVの感染を防ぎます。九つの型のHPVに対応する9価ワクチンは、子宮頸がんの原因となるHPVの8~9割を予防できます。
2013年4月、小学校6年~高校1年相当の女性を対象に、予防接種法に基づき無料で接種を受けられる定期接種となりました。しかし、接種後の体の疼痛や運動障害などを訴える声が相次ぎ、厚生労働省は同年6月に接種の積極的な勧奨を中止しました。その後の研究によって安全性が裏付けられ、2022年4月に9年ぶりに積極的勧奨を再開しました。この間に定期接種の対象だった年代の接種率は、大きく落ち込みました。
厚生労働省は再開に合わせ、1997年4月2日~2008年4月1日生まれの女性を対象に、キャッチアップ接種として救済措置を始めました。自費で打つと数万~10万円ほどかかる接種費用を、定期接種と同様に公費で全額負担しています。15歳以上の人では、HPVワクチンは基本的に3回の接種が必要になります。接種の間隔を数カ月あけるため、3回目を終えるまでに約6カ月かかります。このため、今年9月までに1回目を接種しないと、2025年3月の措置終了に間に合わなくなります。
キャッチアップ接種は広がっていません。措置が始まった2022年度に1回目を接種した人は、生まれた年度別にみて、対象者の約2~9%にとどまっています。厚生労働省が今年実施した調査では、対象者の48.5%が制度を知らないと回答しています。認知度を上げるため、厚生労働省はチラシやポスターを大学に掲示し、接種や受けやすい夏休みに向けて周知を図っています。

(2024年8月7日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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