政府は、日本が直面する少子化の危機に対して2030年代に入るまでが少子化傾向を反転できるラストチャンスとし、昨年末に少子化対策を盛り込んだこども未来戦略を閣議決定しました。しかし、ラストチャンスはもうとっくに逃したと考えるべきです。ボリュームが大きい団塊ジュニア世代に対して、結婚、出産しやすい環境を整えるための政策的な仕掛けができず、第3次ベビーブームは起きませんでした。今後、出産適齢期を迎える女性の人口は減る一方です。
少子化対策のモデルにされてきたフランスや北欧諸国も、近年合計特殊出生率が下がっています。家族を持つことの幸せより、個人としてのキャリアや趣味を追求する、自由を重視する価値観が強くなってきています。
政策で誘導して動かせる出生率の割合は本当に小さいものです。子育て支援策は出生率にプラスの方向に働くことは過去の実績で分かっていますが、先進国では、それだけでは十分に打ち消せないぐらい出生率を下げる世の中のトレンドがあります。年間3.6兆円もの巨額の少子化対策を講じて人口減少に歯止めをかけても、出生率2.0のような水準を期待することはできません。
これからの日本は、人口減少に歯止めをかけることを目指すよりも、人口減少を所与のものとして受け入れ、人口が減っても国民のウェルビーイングが高まるような方向を目指すべきです。人口減少に歯止めをかけるという無理な目標を掲げるのではなくスマートシュリンク(賢く縮む)を進めることです。社会保障のあり方や労働力不足への対応について、中期、長期の具体的なプランを国として立てていく時期が来ています。国民のコンセンサスを得る必要もありますが、戦略的な移民の受け入れについても正面から議論すべきです。
(吉村 やすのり)