妊産婦の自殺対策
近年、日本産婦人科医会に報告される妊産婦死亡の原因として、自殺が占める割合が増加傾向にあります。警察庁の自殺統計によれば、妊娠中から産後 1 年以内の自殺は、2022年の65例、2023年の53例、2024年の44例です。現時点で日本の後発妊産婦死亡を含めた妊産婦死亡原因のトップは自殺であるといえます。

自殺の時期は、妊娠中期から産褥1か月に多い傾向がみられます。この時期は、1-2週に1回の妊婦健診、分娩入院、産後2週間、1か月健診と妊産婦と産婦人科医療機関の接点が多い時期であるため、この時期の妊産婦のメンタルヘルスケア、自殺対策は産婦人科医にとって実践しやすく、積極的に取り組むべき課題です。

妊娠前に精神疾患の診断がなされていない妊産婦においても、妊娠中や産後にメンタルヘルス不調をきたし、自殺することがあり、精神疾患の既往歴がなくても、すべての妊産婦に対してメンタルヘルケアを行うというポピュレーションアプローチを実施しなければならないと思われます。妊娠・出産期に精神的不調をきたしやすいことを妊産婦やその家族に伝えること、傾聴と共感を基盤とした信頼関係の構築、質問票などを用いた心理社会的背景の確認や問題点の把握などを通じて、妊産婦の不安や心配事を能動的に抽出し、早期ケアへとつなげることが大切となります。

(母体安全への提言2024 vol.15 令和7年10月)
(吉村 やすのり)





