高市総理は、2025年10月に心身の健康維持と従業者の選択を前提とした労働時間規制緩和の検討を指示しました。しかし労働時間規制の緩和により経済成長や賃上げを実現するのは困難です。これまでの研究によれば、労働時間規制は、男性に比べ女性のキャリア職への就業率を高め、ジェンダー平等を促進する可能性を示しています。規制緩和は女性のキャリア形成を阻む点で問題が大きいと思われます。
規制緩和が、長時間労働を奨励する慣行に再び火をつけるきっかけとなる可能性もあります。長時間労働が奨励される環境では、女性が出産の役割を担う限り、労働市場で不利になりやすく、その結果家事や育児における男女の協業が困難になり、性別役割分業への回帰を招きかねません。
過労死リスクも無視できません。正社員の残業時間別疲労蓄積度を見ると週20時間以上の残業では、疲労蓄積度が高い、非常に高いと回答する割合が計7割を超えています。身体への影響を考えると、長時間労働が生産性の増加につながるとは考えにくいと思われます。労働時間の上限規制がない場合、週20時間以上の残業が疲労蓄積度の高い人を増やすことが分かっています。働き方改革を経てできあがった残業規制の緩和が、再び労働者の健康を損なう可能性は否定できません。
労働時間の規制緩和は女性の活躍を阻み、過労死の防止を含め、積み上げてきたこれまでの努力を無に帰しかねません。ワークライフバランスを確保しながら1時間当たりの生産性を高め、経済成長につなげるという働き方改革の原点に立ち返ることです。企業の技術革新や労働者のスキル向上がなければ、生産性の向上は望めません。無意味な財政圧迫を避けるべく、評価に裏付けされた研究開発支援に加え、人的資本投資による生産性の底上げが大切です。

(2026年1月28日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)





