乳がん患者の妊娠を支援しようと、厚生労働省の研究班は適切な診療の在り方などをまとめた医療者向けの手引書を作成しています。抗がん剤がもたらす不妊の可能性に加え、治療前に卵子を凍結保存しておく方法なども詳しく解説しています。最近では、子どもを持ちたいと願う患者の病状と意向に沿った治療が医療現場に浸透しつつあります。国立がん研究センターの統計によると、2010年に国内でがんと診断された女性約33万7千人のうち、乳がん患者は約6万8千人と、全体の2割を占めて最も多いとされています。妊娠の可能性が高い若い世代の患者数も増える傾向にあり、40歳未満は4千人を超えています。
がん治療の際、抗がん剤や放射線の使用により卵巣機能が低下し、不妊につながる恐れがあります。がん専門医が妊娠を望む乳がん患者の診療に当たる場合、生殖医療に詳しい医師に相談することが望ましいとされていますが、相談や情報交換をしていた医師は2割程度にとどまり、大変少ないことが問題です。こうした専門医同士の連携不足などが、患者の不妊につながったと考えられるケースが少なくありません。このたび乳がん患者の妊娠出産と生殖医療に関する診療の手引きが作成されました。医師同士が専門分野を超えて連携を深め、子どもを持ちたいという患者たちの切実な願いに応える診療態勢を整える必要があります。
(吉村 やすのり)