長寿科学の研究の進展

 若返り技術はSFの世界から現実に近づいてきています。老化細胞を取り除く薬、細胞を若返らせる遺伝子など、動物実験で有望とされた方法を、ヒトに試す流れが加速しています。英ロンジェビティ・テクノロジーによれば、世界の民間投資額は2024年に85億ドル(約1.3兆円)に達しており、2014年の2倍となっています。その巨額のマネーは、研究の現場に変化をもたらし始めています。

 老化とは、加齢とともに体の機能が少しずつ変化することであり、がんや心臓病など加齢で発症リスクが高まる病気は多くみられます。遺伝子や細胞レベルで老化にかかわるプロセスが解明されつつあり、そこに介入できればそれらの病気を予防できるかもしれません。高齢化が進み医療費の増加が社会問題となる中、健康寿命を延ばす技術開発に期待がかかっています。

 若返り研究では、皮膚などの体細胞を、受精卵に近い状態へ戻すリプログラミング(初期化)を促す遺伝子である山中因子のうち、がん関連遺伝子を取り除いたり、働かせる時間を限ったりする部分的リプログラミングが試みられています。遺伝子の働き方が変わるエピゲノムに焦点をあて、老化によって変化したエピゲノムのパターンを元に戻すことが研究されています。山中因子を使った部分的リプログラミングによって、老化が早く寿命が短い病気のマウス寿命が延びるとされています。

 しかし、体内には多くの細胞があり、山中因子を働かせる過程では、様々な初期化段階の細胞が生じます。目的の細胞だけを安全に残すよう制御することは困難です。世界で研究開発が進む中、ライフバイオサイエンシズによる初の臨床試験が注目されています。山中因子を使う治療法の臨床応用に向けた試金石になります。

(2026年9月8日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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