がん細胞だけをウイルスに感染させて殺す新しい治療法が開発されています。鳥取大学は種痘用ウイルスで、東京大学医科学研究所は麻疹ウイルスでそれぞれ動物実験で効果を確かめています。いずれも正常な細胞には感染、増殖しないように遺伝子を操作したウイルスを血管に注射すると、血流に乗って全身に運ばれます。全身に流れて病巣にたどり着き、がん細胞に感染します。がん細胞を殺すだけでなく、周囲のがん細胞にも感染を広げ、腫瘍が小さくなったり消えたりします。ウイルス感染をきっかっけに、体を病原体から守る免疫機能が働き、がん細胞を攻撃する効果も期待できます。
ウイルスを使うがんの治療法は、従来の手術や抗がん剤などに比べて患者の負担が少ないとされます。また転移したがんを攻撃することもできます。しかし、繰り返し使うと、ウイルスに対する免疫が働いて、効力が落ちる恐れもあります。また治療用ウイルスが体内で増殖するうちに変異し、正常な細胞を攻撃するようになる懸念もあります。さらに変異によって副作用が起きたときの対処法も、用意しておく必要があります。
(2015年1月20日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)