妊娠中のインフルエンザ対応

2009年4月、インフルエンザ(HINI/09)に罹患した健常妊婦の死亡例が報告されたことを契機に、米国疾病予防局(CDC)はパンデミック発生に関する国内サーベイランスを行った。まず、4月中旬からの1カ月でHINI/09の罹患が確認された38名の妊婦のうち11名が入院管理となったことが判明した。その後、2009年6月中旬までに6名の妊婦死亡例が報告された。以上のサーベイランスに基づき、CDCからは「妊婦は基礎疾患を有する者と同等以上にインフルエンザ重症化ハイリスク群であり、罹患の際には適切な管理を要する」との勧告が発表された。

この発表を受け、直ちにわが国では日本産婦人科学会が厚生労働省と協力してHINI/09感染妊産婦の管理指針を作成した。情報を広く発信するために、日本産婦人科学会ホームページには2009年5月からインフルエンザ関連情報を掲載した。特に、「医療関係者および一般の方へのQ&A」は適宜更新され、管理指針の周知に大いに貢献した。なお、インフルエンザ関連情報は継続的に発信され、2011年2月には「抗インフルエンザウイルス薬投与妊婦の出産と小児に対する特定使用成績調査報告」も掲載されている。

妊婦に38℃以上の発熱や急性上気道炎症状(咽頭痛、咳、鼻汁もしくは鼻閉)を認め、周囲の状況(例:同居家族がインフルエンザに罹患)からインフルエンザ感染が疑われる場合には、できる限り早期(症状発現後48時間以内)に抗インフルエンザ薬の投与を開始することを推奨した。妊婦は薬が飲めないと誤解している人が多かったが、一般に妊産婦は重症化ハイリスク群であるため、インフルエンザ迅速検査が陰性であっても、感染が疑われる場合には積極的に抗インフルエンザ薬(タミフル)の投与を開始することが望ましいことを知らせた。

一般に母乳中にウイルスは分泌されないため、原則として母乳栄養が可能であり、母親が児をケアすることができれば、マスクを着用し、しっかりした手洗いをすれば、直接母乳を与えて良いとした。またタミフル服用中であっても母乳を与えてかまわないことを伝えた。いずれも妊産婦には極めて重要なお知らせであった。

インフルエンザ罹患妊産婦は重症化しやすく、主な死亡原因は肺炎による呼吸不全である。特に、妊娠後期には妊娠子宮により胸部が圧迫され生理的に浅い呼吸となることがある。そのため、呼吸障害を看過することのないように罹患の呼吸状態には十分に注意する必要がある。

これら国民に対する迅速な情報提供により、わが国では妊婦死亡例は発生しなかった。世界に類をみないこれらのわが国の妊婦への対応は、諸外国から絶賛されている。日本産婦人科学会の情報発信により、HINI/09疑いの患者には早期より積極的に抗インフルエンザ薬投与を開始したこと、妊産婦を優先接種対象としワクチン接種を推奨したことなど、医療従事者および行政の積極的な取り組みが重症化予防につながったと考えられた。学会の初期対応の勝利であったこれらインフルエンザ対応には学会の周産期委員会の先生らに多大な御尽力を頂いた。心より感謝したい。

現在、中国では鳥インフルエンザ(H7N9)によるヒトへの感染が大問題となっています。日本産科婦人科学会は国民向けに妊娠している、あるいは授乳中の婦人に対してのH7N9感染に対する対応Q & Aを出しました。

(吉村やすのり)

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