1986年Barkerらは、メタボリックシンドロームや、心血管系疾患、脳卒中、糖尿病をはじめとする生活習慣病は、低出生体重児として出生した成人に発症するリスクが高いと報告した。ここでの低出生体重児の多くは、母体の栄養不良による子宮内胎児発育不全を伴う正期産低出生体重児を示す。子宮内環境の悪化によって胎児が生存のための適応を目的としてさまざまな器官や細胞の機能や構造を変化(プログラミング)させた結果、低出生体重児となり、このプログラミングは胎児期には生存のために有利に働くことになる。しかし、出生後はかえってメタボリックシンドロームや生活習慣病のリスクとなるという考え方を提唱した。これが胎児プログラミング仮説である。
メタボリックシンドロームや生活習慣病の発症リスクは低出生体重児で高いが、2,500g以上で出生した場合においても、出生体重の少ない児ほど高率である。また、巨大児でも低出生体児同様にそのリスクが高く、早産期においてもそのリスクが指摘されるようになった。胎児プログラミング仮説では、このような状況を説明するのは困難で、さらに世代間連鎖についても説明が困難であった。
(吉村 やすのり)