新型の万能細胞とされたSTAP細胞について、理化学研究所は19日、検証実験で確認できなかったと発表し、細胞の存在が事実上否定されたことになった。論文の筆頭著者の小保方晴子研究員もSTAP細胞が作製できず、理研は検証実験を打ち切ることになった。今年の1月「まったく新しい万能細胞を作製した」と華々しく発表されたが、ネット上で次々と不正が発覚、やがて論文は白紙撤回されることになった。そして、自ら検証実験に携わっていた論文の筆頭著者である小保方氏は理研を退職することになり、上司であった主要著者の一人だった有能な研究者の自死を含め、悲痛な結末となった。
今回の騒動で、「研究者をめざす大学院生への指導が変質している」との声が現場からあがっている。指導者も院生も研究成果を急ぐあまり、研究に対する姿勢や倫理など基本の教育がおろそかになっていることが指摘されている。不正が見つかったのは何もこの研究者だけでも、理研だけでもない。東京大学医学部の何人もの著名な教授など、多くの別の不正も近年相次いでいる。このことは大学や研究所が、論文などの研究業績のみで研究者を評価する点に最大の問題がある。今回の場合、理研側が割烹着姿でムーミン好きの研究者の取材機会を用意するなど、過剰とも思える広報活動を展開していた。社会にわかりやすく成果を伝え、着目を浴びることが、国からの予算獲得にもつながると理研上層部は考えたのかもしれない。こうした研究所や大学の体質はぜひとも改善すべきである。
もう一つの大きな問題はメディアにある。多くのメディアが若い女性研究者という主役に飛びつき、刺激的な記事や報道によりその快挙を異常な程持ち上げた。それら報道は、不正発覚とともにさらにエスカレートした。こうした報道はよく見られる現象であるが、報道各社も自戒すべきであり、今回の事件を教訓としていただきたい。研究成果に関する報道は、速効性を重んじるのではなく、科学的な裏付け取材が大切である。
一方、小保方氏は「予想をはるかに超えた制約の中での作業となり、細やかな条件を検討できなかったことなどが悔やまれますが、与えられた環境の中では魂の限界まで取り組み、今はただ疲れ切り、このような結果にとどまってしまったことに大変困惑しております」と述べている。さらに、「未熟さゆえに論文発表・撤回に際し、理化学研究所をはじめ多くの皆様にご迷惑をおかけしてしまったことの責任を痛感しており、おわびの言葉もありません」とはしているが、発表当時得られた研究成果が、事実であったかどうか、検証実験でSTAP現象をどうして再現できなかったのかについては一切言及していない。予想をはるかに超えた制約があったが由に再現ができなかったことを悔やんでいると述べている。今でもSTAP細胞の存在を信じているのであろうか。いずれ時が経って落ち着いたら、真実を伝えていただきたい。本当にSTAP細胞は存在したのか、そうではなかったのか。彼女しか知らない真実を話して欲しい。論文成果を信じ、期待した患者も多い。真実を述べることは、それらの人たちに対する研究者の責任でもあると同時に、人間としての責務である。
(吉村 やすのり)