私が医療の世界に身をおいてから40年の年月が過ぎました。周産期医療の臨床医として、生殖医療の研究者として、また教育者として、大学医学部が活動の拠点でありました。不安と期待のなかでお産に臨む女性たち、不妊に悩むご夫婦、岐路に立つ学生との会話、それは言わば、膨大な数の〝個〟とのふれあいの積み重ねであります。 一方、齢を重ねて、関係する各種学会の責任ある立場をお引き受けしたり、学会外活動として多くの公的な審議会や委員会の場で意見の取りまとめの任に携わったりする過程では、〝個〟の集積を社会的・構造的に捉え直すことが不可欠であることも実感いたしました。奇しくも日本産科婦人科学会理事長の在任中にわが国の周産期医療の危機的状況や東日本大震災を経験したことで、我が国のハード・ソフト両面でのインフラの脆弱さを痛感しました。
時代は変わる。私はいま、この当たり前の言葉を深く思っています。時代が変わるということは、世界が変わるということです。その世界の中で、人の意識もまた大きく変わっていきます。 経済成長と医療科学の進歩により日本は世界にも類を見ない長寿社会となりましたが、 他方では〝少子化〟対策はまったく考えられていない状況にあります。
自然環境は改善しているでしょうか。
社会(制度)環境は時代の変化に応対しているでしょうか。
また、地域による医療格差はどうでしょう。大事なことは、その変化が現在進行中であり、変化がもたらす将来に対して私たちの多くが楽観していないという現実です。周産期医療の受益者は明日の社会です。日本の未来を築いてゆくのは女性と子どもたちなのです。こころ健やかに産み、安心して子育てができる社会。これは、私が40年にわたる医療との関わりを通して骨肉となった揺るぎない思いです。そして、それは困難ではあるが実現しなければならない生涯を懸けた目標でもあります。女性が子どもを作り育てたいと思う社会の形成を目指して吉村やすのり生命の環境研究所を開設いたしました。幸いにもたくさんの方々のご賛同とご協力をいただきました。この小さな事務所から発する灯りが皆様のこころに届きますように。
2012年9月
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