今年のノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった坂口志文大阪大特任教授らの研究チームは、制御性T細胞(Tレグ)を大量作製する技術を用いて、来年にも米国で、人に投与する臨床試験を始めます。
免疫細胞の一つであるT細胞は、体内に入った病原体を攻撃する役割がありますが、誤って自分の体を傷つけて炎症を引き起こす不良品のT細胞が一定の割合で生じます。Tレグには不良品のT細胞の活動を抑える働きがあり、この働きを利用して自己免疫疾患などを治療する研究が世界各地で行われています。しかし、安定したTレグを大量に作製することが困難でした。
チームは、自己免疫疾患を発症させたマウスの血液から炎症に関わるT細胞を取り出し、特殊な方法で約2週間培養しました。その結果、T細胞を増やした上で、多くのT細胞を安定したTレグに変化させることに成功しました。免疫異常による大腸炎を発症させたマウスに、このTレグを投与したところ、炎症の悪化が抑えられています。
来年にも、このTレグを自己免疫疾患の患者に投与し、安全性と有効性を確かめる臨床試験を米国で実施します。日本でも、免疫の過剰反応が原因で全身の皮膚に水ぶくれができる難病である尋常性天疱瘡の患者を対象とした臨床試験が計画されています。

(2025年10月23日 読売新聞)
(吉村 やすのり)