動物種による万能細胞の差異

 精子と卵子が出会ってできた受精卵はさまざまな細胞に育ちますが、いったん皮膚や臓器に成長すると別の臓器や組織の細胞にはなれません。細胞の過去をリセットして受精卵のような状態に戻したのが、ES細胞やiPS細胞です。しかし、受精卵と全く同じ細胞になるわけではありません。同じiPS細胞でもマウスやラットのiPS細胞の方が受精卵に近く、ナイーブ型と呼ばれます。人間やブタなど比較的大きな哺乳類の細胞はプライム型といわれ、より成熟が進んでいます。つまり、iPS細胞でもES細胞でも、さまざまな臓器や組織の細胞に育つ万能細胞は、動物の種類によって性質が異なります。

このような動物に種差は、iPS細胞のみならずクローン胚にもみられます。体細胞の核を除核した未受精卵に移植するとクローン胚ができます。このクローン胚を数日間培養すると、胚盤胞に達し、将来ヒトのさまざまな臓器や細胞に分化する元である内細胞塊ができてきます。この内細胞塊より樹立するのがES細胞です。マウスにおいてはクローン胚よりES細胞を樹立することは比較的容易にできますが、ヒトにおいてはES細胞を樹立することは大変に難しいとされています。というのもクローンは8細胞期ぐらい発育を停止し、胚細胞まで発育させることは難しいからです。このようにヒトとマウスでは性質が異なっており、これがヒトでの研究が必要な所以です。

 

(2014年11月23日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

 

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