女性の生殖年齢の適齢期とは

昨年、内閣府の少子化危機突破タスクフォースでの「生命と女性の手帳」(仮称)は、国民的議論に発展した。人の生殖に関する知識の啓発の観点から、個人のメディカルヒストリーを標すようなノートがあってもよいのではないかとの発想から生まれたが、「産むか産まないかに国が口を出すのか」「個人の生き方への介入に繋がりかねない」などの批判が相次いだ。妊娠・出産に関わる意思決定、すなわち子どもを産むのか産まないのか、いつ産むのかといった判断については、当事者である男女が自らの意思で決定すべき事柄であることは自明の理である。

一方で、女性の生殖機能には適齢期があり、子どもをどう持つか、どのように育ててゆくか、さらに女性のトータルライフを考える上で、女性のからだがどのように変化してゆくのかといった情報はこれまで与えられてこなかった。そのため早く結婚して子どもを産みなさいとだけ女性に訴えても、その必要性や重要性が理解されないのは当然である。妊娠や子育ては男女2人の問題であることを考慮すれば、女性のみならず男性にもその意義や重要性について知識の普及と教育が必要となる。もちろん不妊原因の40%は男性にあり、妊娠・子育てが男女2人の問題であることは言を俟たない。タスクフォースでも当初から男性への啓発が重要であるとの指摘がされていた。決して、妊娠・出産・子育てを女性に押し付ける意図があったわけでは全くない。

妊娠を、望まない妊娠、避妊というネガティブな切り口で捉えるものではなく、いかにしたら妊娠できるか、妊娠することの素晴らしさと言ったポジティブな考え方で思春期から教育することが必要である。文部科学省は平成26年度より高等学校の保健体育における妊娠・出産に関する学習指導要領を変更することになっているが、以前のものと比べると一部改善が見られるものの、生殖に関する知識の啓発という観点からは十分とはいえず、若い男女が妊娠現象を考える上で有用な情報が得られる手段として必ずしも考えにくい。女性が妊娠できる能力、つまり妊孕力は、22歳を1とすると35歳に0.4、40歳前後には0.2まで減少する(図参照)。女性の理想的な妊娠時期は25歳から35歳であり、この時期に分娩できるような社会や職場の環境づくりが大切である。そのためには、高齢妊娠の困難性や危険性を思春期の頃より教育することが重要となる。そして若い男女に自らの身体のしくみを理解してもらうことが必要となる。何よりも女性が子どもを産み、育てたいと思うような社会を作ることが肝要と考えられる。

(わが国の少子化を考える:吉村泰典)
(吉村 やすのり)

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