がんと妊孕性―Ⅸ

おわりに

 若年がん患者であれ、原則としてがん治療を最優先すべきであり、治療中はがん治療に専念しなくてはなりません。そして治療が終了し、がん治療医より妊娠許可が出たとしても、がん治療による卵巣機能不全によって挙児を得ることが難しい可能性があります。ARTを実施して必ずしも妊娠できるとは限りません。また原疾患の状況によっては、ART治療中も再発や再燃のリスクがあり、がんに対する恐怖が完全に消え去るわけではありません。
 がんと告知された後、若年女性のがん患者は、治療開始前の限られた時間内に、妊孕性温存に関する判断をしなければなりません。がん治療によって妊孕性が消失する可能性を考慮し、妊孕性温存のための治療手段を受けるか否かを自らが決定することになります。がん告知により、不安や抑うつ状態の中で、妊孕性を失う可能性についての説明は、患者にとってはかなりの心的なストレスになることが予想されます。この際の精神的サポ-トが極めて大切なものとなります。
 原疾患の治療開始までの時間が限られている中で、患者や家族に対していかに正確な情報を伝えるか、そしてがん治療医や生殖医療専門医と密に連携をとることが重要です。そのためには医師のみならず看護師、臨床心理士、薬剤師、ソーシャルワーカーなどから構成される医療チ-ムの結成が必要となります。がん患者の妊孕性温存に関しては、治療開始前に卵子や卵巣組織凍結保存する生殖医療専門医と、原疾患を治療する腫瘍専門医による十分な情報交換と、同時に診療協力体制の確立、」さらに臨床心理士による患者とその家族に対する十分なカウンセリングが不可欠です。“いのちの未来を拓く”、この領域の発展を心より期待しています。

(吉村 やすのり)

 

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