特定機能病院の取り消しに憶う

厚生労働省は、患者が死亡する医療事故が起きた東京女子医科大病院と群馬大学医学部付属病院に対して、高度な医療を提供する病院として診療報酬の優遇が受けられる特定機能病院の承認を取り消すことを決定しました。塩崎厚労相は、医療安全に関する重大な事案が相次いでいるのは、病院の管理運営に必要なガバナンスに問題があり、対策を講じる必要があると述べています。特定機能病院は、先端治療など高度な医療を提供する病院を厚労相が承認します。病床数が400以上あることや、安全管理体制が確保されていることなどが条件とされています。入院料などで診療報酬が加算される優遇が与えられ、現在全国で86の医療機関が承認を受けています。うち9割を大学病院が占めています。承認を取り消された場合、患者に直接の影響はありませんが、診療報酬上の優遇がなくなるため、病院は著しい減収となります。
 今回の最も大きな問題は、医薬品の禁忌や患者の死亡事案などといった重要情報が、医師間や診療科間で共有されていなかったことにあります。また、診療科が自らの科において起こるアクシデントを報告する義務を怠り、病院もそのアクシデントを把握していなかったことに問題があります。両事故ともに調査委員会が設置され、調査報告書が提出されていますが、第三者による十分な検証がなされていなかったように思われます。また報告書は事実経過の説明や原因の究明のみならず、再発防止に資するものでなければなりません。各診療科だけの問題として捉えるものではなく、病院全体の問題として要因を分析すべきです。
 医師研修制度は2004年に新しく変わり、医師には2年間の内科や外科などの臨床研修が義務付けられています。これら教育には、到達目標が提示されており、その研修内容はほとんどがマニュアル化されています。現在の大学病院などの医療環境にあっては、研修医が臨床能力を研鑚する場も少なくなってきています。また、地方における医師不足を解消する目的で、医学生数は毎年1,000名以上増加しています。現在医師数は年間9,000名を超え、医師のモラルの低下、さらには学力の低下のみならず診療技術の低下も指摘されるようになってきています。医師教育の在り方のみならず、医師の診断、治療能力についても検証が必要となります。
 医師を教育する側にも問題があります。過誤を起した医師を指導すべき立場にある大学病院の教授は、起こっている問題に対して十分な認識がなかったと思われます。事態の重要性を考えれば、何らかの教育的指導があってしかるべきです。部下の起こした過誤は、全て指導者の責任です。そのための指導者です。最近の教授の選考にあたっては、臨床であっても研究業績が重視されることが多く、外科系においても手術を含めた臨床を得意としないものも増えてきています。しかしながら、教授選考にあたっての臨床評価は極めて難しいものがあります。こうした問題を契機に、大学における臨床教育の方法や在り方についても検証しなければならないと思われます。

(2015年5月1日 毎日新聞)
(吉村 やすのり)

 

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