生殖医療と不妊治療

生殖医療という用語が使われだしたのは1990年代前半である。それまでは不妊治療と呼ばれており、排卵誘発、卵管のマイクロサージェリーや人工授精など、あくまでも自然の生殖過程、いわゆる体内受精を再現するものであった。1987年、エドワーズ、ステプトー両博士によって成功された体外受精・胚移植を契機として従来の不妊治療と決別した。地道な生物学の成果と不妊治療が合従して登場した体外受精・胚移植は宿志を実現した観があり、革新的な不妊症の治療法として導入され、瞬く間に全世界に普及していった。その後、顕微授精をはじめとする様々な体外受精の関連技術が開発され、これらは補助生殖技術と呼ばれるようになった。

法律家の方々は古くから非配偶者間人工授精の法的諸問題についてかかわってきておられ、これらの医療においては人為的な操作により子どもをつくることになることから、公的な委員会では自然生殖に対する表現として人工生殖という用語が使用されていた。しかしながら、この言葉は不妊治療に従事するわれわれにとって大変不堪な用語であったこともあり、1990年代の後半、厚生科学審議会専門委員会に参加させていただいた折に、体外受精をはじめとする先端的な不妊治療を生殖補助医療と呼称したいと提案させていただいた。それ以来、いろいろな分野の専門家の方々も生殖補助医療という用語を使用してくださるようになった。現在では不妊治療という用語もあまり使用されなくなり、生殖医療という用語に統一されるようになってきている。これも懐かしい想い出である。

現在も生殖医療とか生殖補助医療という用語が使用され続けているのは望外の喜びである。

(吉村やすのり)

 

 

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