産後うつ

 妊娠分娩という一大イベントを終えると、生理的機能の変化に加え、女性としての役割や取り巻く環境の変化、育児ストレスなど、身体的にも社会的にも負担が増加しやすくなります。このため身体が妊娠前の状態に戻るまでの68週間(産褥期)は、ストレス負荷によりさまざまな精神障害を発症しやすく、これまであった精神疾患の再発も増加する時期です。周産期のメンタルは、母親のみでなく、誕生した児との相互作用、家族機能など全体の関係性に注目し、予防介入する視点が必要です。
 妊娠うつは、妊娠中に発症するうつ病と定義されます。わが国の妊娠うつ病の危険因子として、中絶の概往、児童期の喪失体験、高い神経症性傾向、妊娠に対して愛と憎しみの感情が同時に存在している状態、不良居住環境などがあげられています。妊娠うつは、早産や低出生体重児のリスクを高めるとの指摘もあります。マタニティ-ブル-ズとは、産後310日以内に始まり、産後2週間以内に治まる一過性の抑うつ状態です。マタニティ-ブル-ズの症状は、不安定な気分、敏感な気持ちの高まり、疲労、集中の低下、孤独感、絶望感などがあげられます。その好発時期は産後35日であり、わが国での有症率は1530%程度であり、諸外国に比べると低い。わが国での有症率が低い理由の一つに、里帰り分娩という特有の文化があることが考えられます。
 マタニティ-ブル-ズは、抑うつ状態と類似しているが、産後のうつ病とは区別されます。マタニティ-ブル-ズは、産後すぐから始まり、産後10日から2週間で自然軽快します。不安になったり、気分が落ち込む、不妊、イライラがある、なぜか疲れる、体調がすぐれない、子育てが楽しくない、子どもがかわいいと思えない、子どもにどう接して良いのかわらないといった症状がある時は、家族、産婦人科医師や助産師に相談することが大切です。

(2016年2月23日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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