腹腔鏡のリスク

 外科の領域での腹腔鏡を使った手術は、日本では1990年に胆のう摘出で行われました。この手術が92年に保険の対象となり、腹腔鏡手術が拡大するきかっけとなりました。日本内視鏡外科学会の調査では、腹腔鏡を含む内視鏡手術の症例数は90年には2370例でしたが、2007年に10万例を超え、13年は178000例に達しています。19902013年の合計でみると、症例数は胆のうや胃がんなどの腹部外科が約半数を占めています。次いで産婦人科で子宮筋腫や子宮内膜症などが多くを占めています。3番目は肺がんなどの呼吸器外科となっています。
 一般的に内視鏡手術は開腹手術より難易度が高いとされています。ただ日本外科学会と日本消化器外科科学会の調査では、胃切除の全体死亡率1.07%に対し、腹腔鏡手術は0.43%を占めています。腹腔鏡手術は早期がんに適用されるケ-スが多いことを踏まえても、日本外科学会などは「開腹を比べ死亡率が高い事実はない」としています。このように体への負担が少ないとして普及してきた内視鏡手術ですが、その信頼を揺るがしかねない事態が相次いでいます。群馬大学病院などで、内視鏡の一種、腹腔鏡を使った手術で複数の患者が死亡したことが報道されています。肝臓や膵臓の腹腔鏡手術は、難易度も高く保険適用外の手術も多くみられます。このような場合、安全面に配慮しているかなどを審査する倫理委員会を通すことで、リスクを適切に判定することが大切になります。内視鏡手術に限らず、すべての手術には一定のリスクがつきまといますが、医療現場はそのリスクを最小化する努力が求められています。

(2015年5月17日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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