遺伝子治療

 人体に遺伝子を入れ、その働きを利用するなどの方法で病気を治す遺伝子治療が行われるようになってきています。パーキンソン病は脳内の神経伝達物質のド-パミンが作られないため、手足が震え全身の動作に支障が出る病気です。ド-パミン合成に必要な酵素である、AADCを作る遺伝子を脳に入れて、症状を改善しようとするものです。アデノ随伴ウイルスというありふれたウイルスにAADCの遺伝子を入れて注射すると、ウイルスが細胞に感染し遺伝子が送り込まれます。そして細胞内で遺伝子が働いて、目的の酵素を作り、ド-パミンが分泌されるようになります。
 遺伝子治療で血液がんの悪性リンパ種を治す臨床研究も始められています。患者の血液を採り、がんを攻撃するT細胞という免疫細胞を取り出してCARと呼ばれる遺伝子を入れます。するとT細胞の表面に、この遺伝子が作るたんぱく質ができ、患者の血管に戻すと、新たにできたんぱく質が血液がん細胞の表面に結合し、高い破壊力を発揮します。さらにウイルス自体の遺伝子を改変し、がんを直接攻撃させる新タイプの治療法もあります。ヘルペスウイルスの遺伝子を改変し、がん細胞だけで増殖するようにし、脳に針を刺してこのウイルスを腫瘍に入れると、増殖しながら次々とがん細胞を破壊していくというものです。このように新たな手法が次々と開発され、リスクを抑えつつ、効果が期待できるようになってきています。

(2015年8月9日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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