遺伝性乳がんの取り扱い

妊孕性のある若年発症の乳がん患者を診察する場合、遺伝性乳がんの可能性を考慮しなければならない。乳がんは、1.胚細胞の遺伝子変異により発症したと考えられる遺伝性乳がん、2.遺伝性の有無に関わらず家族に乳がん罹患者が多数いる家族性乳がん、3.遺伝性も家族歴もない散発性乳がんに分類される。頻度は、それぞれ全乳がんの、1. 5-10%、2. 15-20%、3. 70-80%を占める。遺伝性乳がんのうち、BRCA1あるいはBRCA2の遺伝子変異による乳がんが90%を占めている。BRCA1/2遺伝子変異を有する場合、50歳までに乳がんを発症する確率は33-50%、70歳までに56-87%と高率になる。また70歳までに卵巣がんを発症するリスクは、27-44%とされる。

BRCA1/2遺伝子変異は採血検査にて同定可能であるが、検査後の結果によっては与える影響が大きく、遺伝子検査を施行する前に十分な遺伝カウンセリングが必要である。遺伝性乳がん・卵巣がんは、家系内の複数世代間で関連がん罹患者が存在することから、詳細な家族の聴取が発見の端緒となる。そのため遺伝カウンセリングのクライエントは、発症者だけではなく、未発症の血縁者など多岐にわたることが予想される。

妊孕性温存治療を検討する際には、卵巣がんの発生リスク、BRCA1/2の遺伝子変異は、常染色体優性遺伝のパターンで継承されること(50%の確率)の理解を図る必要があると思われる。BRCA1/2遺伝子変異を有する女性の予防的乳房切除やリスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)が、乳がんや卵巣がんの発症リスクの低下や総死亡率の低下に有意義であると考えられている。乳房切除やRRSOに関しては、クライエントの生殖に関する希望、発がんリスクの程度、手術の有用性、術後の更年期障害の管理などについて十分に話し合いをしておかなければならない。理想的には30~40歳の出産終了後、十分な遺伝カウンセリングを行い、個別的な判断をすることが推奨される。

(2014年8月19日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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