高齢者の地方移住に対して憶うこと

 東京圏では、今後10年で介護が必要な高齢者が急増し、施設や介護人材の不足が深刻化します。団塊世代の高齢化で2020年以降、東京圏は急速に高齢者向けの施設が不足するだけでなく、ただでさえ全国的に不足する介護人材を補うため、地方から大量の若者を流入させる必要性が生じます。その結果、減少が続く地方の若年人口がさらに減ることが見込まれます。日本創成会議の提案は、近い将来、首都圏では介護施設の入所枠を奪い合う事態が想定されるから、余力のある地方に移住したらどうかというものです。
日本創成会議は、昨年の消滅可能性都市に続き、ショキングなデ-タを示して少子高齢化対策に危機意識を持たせようとする戦略かもしれません。しかし今後、高齢者の医療や介護政策の中心は、在宅を柱の一つに据える地域包括ケアに変わりつつあります。提言は、こうした地域の努力に水を差すもののようにも思われます。在宅と施設で医療・看護・介護を分担し、地域が見守るという視点が決定的に欠けています。また、都会に住んでいた高齢者が、馴染みのない空間で安らかな死を迎えることができるかも疑問です。この提言には、どのような最期を生活者として迎えられるかの人間的視点も欠如しているように思われてなりません。

(2015年7月10日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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