卵子の凍結-Ⅰ

 ヒトの卵子は直径0.1ミリ程度で、体の中では最大の細胞です。体外受精で採卵するのは、排卵直前の成熟した卵子です。成熟卵子の表層に近い部分には、遺伝情報のかたまりとも言える染色体が紡錘糸と呼ばれる糸につながれています。以前卵子は、精子や受精卵に比べて水分が多く、凍結は難しいと言われてきました。それは、水が凍ると結晶化し、結晶同志がくっついて大きな結晶に成長し、体積も10%程度増えます。卵細胞の中でも同じことが起こります。卵子を凍結すると、卵子内外の水分が凍って氷の結晶ができ、細胞膜や細胞内小器官、紡錘糸などの構造が壊れてしまいます。
 そこで、開発されたのが特殊な凍結方法です。なかでもガラス化法は、低温でも結晶化せず、膨張しない凍結保護剤に水分を置き換えたうえで、液体窒素でマイナス200度に近い低温に瞬間冷却します。名前の由来は、ガラスと同じように結晶ではない状態で固めるという意味です。凍結保護剤にはいくつかありますが、細胞への影響や毒性が低いとされるエチレングリコ-ルがよく用いられます。卵子は大きい細胞なので、凍結保護剤に置き換えてもわずかに残った水分が凍る可能性があるため、液体窒素による急速冷却で氷の結晶が成長するのを防ぎます。

(2015年8月1日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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