再生医療の今後

 皮膚や血液の細胞から作製された無限に増殖する体の様々な細胞に変化することができる万能細胞であるiPS細胞が開発されて、今年で10年が経過しました。山中伸弥教授が作り出したiPS細胞は、ES細胞のように受精卵を使う必要がないため、倫理的な問題が無く、作りやすいことから、再生医療への利用が期待されています。
 初めての臨床研究は、加齢黄斑変性という目の病気で始められました。2014年には患者のiPS細胞から作った網膜の色素上皮細胞のシートを患者の目に移植しました。iPS細胞が体に入ると腫瘍になる危険性がありますが、今のところ異常は起っていません。しかし、細胞の培養や品質のチェックに膨大なコストと時間がかかります。1例目では、細胞の準備から移植までに1年近く、約1億円を費やしたとされています。このため、京都大学iPS細胞研究所では、あらかじめ品質を確認したiPS細胞を備蓄し、配るプロジェクトを開始しています。細胞は、多くの日本人に移植しても拒絶反応が起きにくいタイプの健康な人から提供してもらうことになっています。
 国も全面的に支援しています。iPS細胞を含む再生医療関連の今年度予算は、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省を合わせて約148億円にも達しています。文部科学省は、iPS細胞研究のロードマップを改訂し、計19の細胞や器官で、実際に患者で研究を始める目標時期を揚げています。京都大学が進めるパーキンソン病患者への神経細胞の移植や血小板の輸血、大阪大学の角膜の移植は、早ければ今年度の開始とされています。しかし、これらiPS細胞が国外で再生医療に広く使われるかは不透明です。すでに欧米ではES細胞を使った研究が根付いており、加齢黄斑変性など、数十人の患者にES細胞から作った細胞による臨床応用進んでいます。iPS研究の進歩は、著しいもののこれまで臨床的な有用性は証明されていないのが現状です。臨床応用までには、越えなければならないハードルはまだまだいくつもあります。

(2016年5月12日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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