医の倫理について考える―Ⅵ

臨床医学会の役割
 医療行為の是非や提供について学会を中心に検証や制御してきた従来の在り方が、そのまま通用しない状況になってきている。そうした状況の背後には、医療以外の専門的な見解も取り入れて、かつ国民の意見も考慮した一種の社会的な合意と言いうるものを、何らかの実効的な権限の裏付けの下に形成しなければ、問題に適切に対応できないという構造をみて取ることができる。そのため、医療に関する専門職能集団である学会だけで、このような役割を担うことは一般的には困難であると考えられる。
 学会は、問題とされる医療行為の是非について判断が行われる際、専門職能集団としての見解を取りまとめ、社会に提示することが必要となる。これは純粋に科学的な立場から、当該医療行為に関して予想される効果やリスクを明らかにすることはもとより、倫理的、社会的な問題点も考慮し、当該医療行為の是非についての医学的な判断を提示することまで含まれうる。専門職能集団の基本的な使命として、あるべき医療の姿を追求しようとするのであれば、単に科学的な面からの見解を示すだけにとどまらないことは当然である。しかし、学会での医学的適応に関するガイドラインの作製は、立法府の是非の判断、法的諸問題の検討の後に行われるべきものであることも多く、必ずしも専決事項ではないことがある。
 医療行為の是非や提供の在り方についての検証や制御は、学会の外部の枠組みにおいては、社会的な合意として行われることが適切であると考える。そこで下された判断は、関係行政機関によるガイドラインの制定や、場合によっては立法的措置によって実効性を担保されることになると思われる。それらに基づいた医療を実際に担うのが、医療現場にあることに変わりはない。学会は、制定されたガイドライン等についてその趣旨を正しく踏まえて適切に実施されるよう、医療の現場を指導し支援する役割を果たしていくべきである。新たに作製するガイドラインが、医療の現場の実情と乖離したものとならないよう、その策定作業に参画することも必要となる。同時に、問題点の検証や社会的な合意形成が不十分な状況下で、個々の医師の判断によって実践のみが先行してしまうことのないよう、医療現場における良識ある統一的な対応を確保することも、専門職能集団としての学会の重要な役割であると考える。
 現在の制度下であれば、医療や医学研究に関する諸問題は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議生命倫理専門調査会などで広く議論されることが望ましい。その結果、行為規制の枠組みができれば、法的諸問題については法制審議会で検討し、法的規制が必要な場合は立法化し、医学的・倫理的諸問題については厚生科学審議会でより詳細に議論の上ガイドラインを作製し、わが国の医療や医学研究の方向性を決定すべきである。

(吉村 やすのり)

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