出生前診断を考える

近年の出生前診断技術の進歩により多くの胎児疾患が診断可能となってきている。出生前診断は主として羊水穿刺および絨毛採取によって胎児由来の細胞を採取したり、超音波診断により実施されてきた。

これらの胎児疾患の中には、胎児治療により病態の回復あるいは進行の抑制から予後の改善が可能なものがあるため、胎児疾患の出生前診断の意義が認識されるようになってきている。また、新たな方法として、体外受精による初期胚から一部の割球を採取して行う着床前遺伝子診断が開発され、すでに世界各国で臨床応用されている。


これら出生前診断や着床前診断は、胚や胎児異常の有無や程度の把握を目的に実施されることが多く、罹患児への対応において胚の棄却や妊娠中絶が含まれることから、障害児の生存権にかかわる生命倫理が深く関わっている。これらの問題に対して、医師や患者の個人レベルの倫理観のみで対応することは不可能であることから、関連する専門学会がガイドライン等を作成して対応しているのが現状である。施行するにあたっては、クライアントであるカップルに十分な情報提供を行い、自己選択により決定し、強要しないことが基本となる。

2012年8月末以降に全国的にマスメディアによって報道されたいわゆる「新型」出生前診断については大きな問題点を投げかけている。母体血を採取することにより、簡便に検査が可能なことから安易にマススクリーニング的に実施される可能性があり、さらには出生前診断に深くかかわらない産婦人科医以外の医療者でも扱えることが懸念されている。現時点では、染色体数的異常(21、18、13トリソミーなど)をその診断対象としているが、今後は解析手法のさらなる進歩により、胎児に関するあらゆる遺伝子解析情報が提示され、その取捨選別が行われかねないことも新たな倫理的課題として提起されている。これらの検査では、解析結果の解釈が従来の検査に比較して難しいことも多く、臨床対応には遺伝医学的専門知識が求められ、検査実施や診断には専門家による検査前ならびに検査後の遺伝カウンセリングが必須である。一方で、これらの検査が広範囲に実施された場合、社会に大きな混乱を招くことが懸念され、マススクリーニングとしての安易な実施は厳に慎むべきであると考えられる。

 

2012年12月5日 愛媛県産婦人科医会特別講演 @松山 より

<吉村やすのり>

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