配偶者の同意なき体外受精による出産

身分関係を確認しないで、婚姻関係のない男女との間で体外受精をした医師が、婚姻関係にある妻より損害賠償請求が行われた事例。

妻と別居中にあった夫が、別の女性との間で体外受精を行い妊娠し、女児を出産した。その施術を施行した医師が、夫との婚姻関係にある妻より配偶者の権利が侵害されたとして、精神的慰謝料1億5,000万円の損害賠償を請求された。

判決では、医師の過失は認められないとした。日本産科婦人科学会の見解において、被実施者が夫婦であることを確認するために戸籍を確認することが望ましいとする解説の記述は、平成18年に削除されている。医師はクライエントの男女が夫婦であると言明すれば、体外受精を実施してもよいことになっており、医療行為には故意、過失がなく、請求は棄却された。しかし一方で、「婚姻関係にある男女の一方が配偶者の承諾なく、配偶者でない第三者との間で子どもを作る行為は、配偶者の婚姻共同生活の平和の維持という権利または法律上保護に値する利益を侵害する不法行為に当たる」とした。つまり、生殖医療における配偶者の権利を明確に示した判決ともいえる。

(吉村 やすのり)

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