着床前診断について憶う

日本産科婦人科学会は、流産を繰り返したり、体外受精しても妊娠できないカップルに対して、着床前遺伝子スクリーニング(PGS)のための臨床研究を開始する。受精卵に染色体の数的異常があれば流産することが多く、あらかじめ移植する前の受精卵の時期に割球を取りだし、アレイCGHにより割球の染色体検査を行い、異常があれば廃棄することになる。海外においても、このアレイCGHを用いたPGSが、流産防止や生児獲得率を高めることにつながるとの科学的エビデンスはないのが現状である。そのためわが国において、PGSの医学的有効性を検証しようとする臨床研究である。

 このPGSの実施は、人が受精卵を選別することができるのかといった大きな倫理的問題を内包している。PGSはまさしく障害のある人々の存在を否定することにつながる医療行為であるとして、中絶を行う出生前検査よりも生命倫理的に問題が多いと指摘する者もいる。本日の読売新聞の医療ルネサンスは、この問題を取り上げ、18トリソミーの子を持つ夫婦のことを言及している。流産することが多く、生まれても短命である18トリソミーの子どもから生きることを教えて頂いているとお話されている御夫婦は、美しく輝いて見える。21トリソミーや18トリソミーの子どもたちがマスメディアを通じて報道され、社会にカミングアウトしてくることが望ましい。こうしたことにより、社会における障害の認知度が高まり、支援の輪が広まることが強く期待される。

 2013年に新型出生前検査が始まった時や今回のようにPGSの臨床研究を実施しようとする段階になると、検査を受けたいというクライエントの人権は守られるべきであると強調する者もいる。そうしたクライエントの検査を受けたいという希望を無視することができないが、同時に障害のある人々が、心健やかに生きることができるような社会を作っていくことがより大切であることを忘れてはならない。PGS臨床研究の導入によって起こる様々が議論が、成熟した社会の形成のための一助となることを切に望む。障害のある人から学ぶことは本当に多い。健常人を支えているのは障害のある人たちかもしれない。

(2015年1月22日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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