がんと妊孕性温存―Ⅱ

最近の細胞凍結保存技術の進歩により、精子や生殖補助医療で作られた胚の凍結保存はさかんに臨床応用されるようになっており、未受精卵の凍結保存による妊娠も試みられている。さらに今世紀に入り卵巣の凍結保存も実施されるようになり、融解後の卵巣組織の移植による妊娠例が報告されるようになってきた。腹腔鏡下に原始卵胞を多く含んでいる卵巣皮質の一部を摘出し、凍結する。卵巣の凍結保存には、緩慢凍結法またはガラス化法に凍結保存した卵巣組織を解凍後自己移植して、卵胞の成熟を促す方法と分離した卵胞を体外培養し成熟卵を得る方法がある。

卵巣凍結はこれまで報告されている出産例が20数例に満たないことからわかるように、未完成の医療技術と言わざるを得ない。現在まで報告された症例では移植後卵巣の機能期間は1年程度と短く、悪性腫瘍細胞再移植の危険性も解決されていない。これまで出生児の異常は報告されていないが、自然妊娠と比較できるほどの臨床例の蓄積はもちろん存在しない。卵巣凍結保存は将来有望な妊孕性保存法ではあるが、現時点では卵巣への転移が比較的少ない悪性リンパ腫などの限られた疾患で考慮されるべきである。治療開始までの時間が限られている、あるいは思春期前などの特殊な状況下でのみ、受精卵や未受精卵子凍結保存の補完的、かつ臨床研究として実施されるのが望ましい。

一方、若年者の悪性腫瘍の場合の卵巣保存においては、本人が自己決定することが困難なことがあり、親権者である両親から同意を得ておくことが必要となる。保存期間が長期となることが予想され、その管理費用の負担、良好な成熟した卵子を得られなかった場合の責任問題など解決すべき社会的あるいは倫理的問題が多数残っている。悪性腫瘍患者の妊孕能温存に関しては、治療開始前に卵巣凍結保存する生殖医療専門医と、原疾患を治療する腫瘍専門医による十分な情報交換と同時に診療協力体制の確立、さらに臨床心理士による患者とその家族に対する十分なカウンセリングが不可欠である。

(吉村やすのり)

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