社会的卵子凍結

 未婚であることや、仕事を続けたいなどの社会的理由で、自らの卵子を凍結保存し、将来の妊娠・出産に備える女性が増えています。2013年に日本生殖医学会は、がん患者の治療による卵巣機能廃絶を避けることを目的とした医学的卵子の凍結のみならず、社会的卵子や卵巣組織の凍結についてのガイドラインを作製しています。対象は成人女性で、本人の妊娠・出産のためのみに使用でき、卵子を他人に譲渡することはできません。40歳以上の採卵は妊娠率が低いため、45歳以上の使用は高齢妊娠のリスクのため、医学的には推奨できないとしています。また日本生殖医学会が認定する生殖医療専門医がいる施設で実施すべきとの施設基準も設けています。クライエントは、医療者側からの卵子凍結の意義や問題点、さらには妊娠率、凍結した卵子を用いて妊娠する際の注意事項を十分に聴く必要があります。
 今回の毎日新聞の4都道府県と東京・大阪・愛知・福岡の調査では、多くの施設で社会的卵子の凍結が実施されていることが明らかとなりました。また、少子化対策の一環として、浦安市は社会的卵子の凍結を補助する制度を開始しています。しかしながらこうした地方行政の支援は、却って未婚化を増長させたり、不妊治療の開始を遅らせたり、高齢妊娠の増加につながり、少子化対策に役立つとは思えません。行政がこうした支援を考えるより、出産や子育てのしやすい社会環境の実現をはかり、若い人々が結婚し、子どもを作りたいと思えるような社会を作ることが何よりも先決です。市長は、社会的卵子凍結は女性の社会性不妊を救うための緊急避難的な対策であり、産みたい女性を支援すべきであると述べています。しかし、本末転倒としか思えない施策です。

(2015年5月2日 毎日新聞)
(吉村 やすのり)

 

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