生殖医療管見-Ⅰ

 英国の生理学者エドワーズと産婦人科医ステプトーが、1978年に世界で初めてヒトの体外受精・胚移植に成功し、ルイーズ・ブラウンが誕生した。地道な生物学の成果と不妊治療が合従して登場したこの技術は宿志を実現した観があり、この生殖補助医療技術は瞬く間に全世界に普及し、生殖医学や生命科学の大きなブレークスルーが起きた。これら生殖補助医療技術の普及は、卵管性不妊症のみならず、男性不妊症や原因不明不妊のクライエントに大きな福音をもたらしている。この体外受精関連技術で出生した児は、世界では500万人以上に達し、わが国において34万人を超え、2012年には総出生児数の3.66%を占めている。実に27.3人に1人が、体外受精関連技術で誕生していることになる。エドワ-ズ博士はこの体外受精・胚移植技術を開発し、生殖医療にブレ-クスル-を起した業績により、2010年のノ-ベル生理学・医学賞を受賞した。この先端医療はそれまでまったく妊娠を望めなかった夫婦でも子どもが持てることを可能にしたが、一方では技術の進歩に伴い、新たな医学的、社会的、倫理的、法律的な問題を提起するようになってきている。
近年の生殖補助医療の進歩には瞠目に値するものがあり、それら新しい技術を適切に運営するためには、ガイドラインなどの整備が必要なことはいうまでもないことである。日本産科婦人科学学会は、法律や倫理規定などがないわが国において、倫理的に注意すべき事項に関する見解を公表し、メディカルプロフェッションとして国民に対して安全で質の高い生殖医療を提供するために、枢要な社会的役割を果たしてきている。しかし、生殖医療においては、生まれてくる子どものことを考慮すると、社会的、倫理的な問題を大いに包含していたり、法的整備が必要不可欠であることが多い。

(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。