生殖医療管見-Ⅶ

臨床医学会のあり方
 生殖医療の従事者は不妊患者の直接的な対話者であることから、結果的にその代弁者となり、卵子提供や代理懐胎の実施を強く主張することになる。しかし、これらの行為には必ず第三者や生まれてくる子が存在することを常に考慮すべきである。生まれてくる子の法的地位が不安定にならないためにも、最低限の親子関係の法の整備が臨床応用の前提条件として必要となる。これらは通常の医療ではありえないことであり、クライエント夫婦と医師の間で相互の同意が得られれば実施しても構わないという考え方が成立しないのが生殖医療であることを肝に銘ずるべきである。学会での医学的適応に関するガイドラインの作製は、立法府の是非の判断、法的諸問題の検討の後に行われるべきものであり、専決事項ではないと考えられる。
 近年の生殖補助医療の進歩には目覚ましいものがあるが、それら新しい技術を適切に運用するためには、ガイドラインなどの整備が必要なことは言うまでもないことである。日本産科婦人科学会は、他学会に先駆けて臨床・研究を遂行する際に、倫理的に注意すべき事項に関する見解を公表し、会員各位に遵守を求めてきている。法律や倫理規定などがないわが国において、これまで学会はメディカルプロフェッションとして、安全で質の高い医療を提供するために社会的役割も果たしてきた。しかし生殖医療においては、生まれてくる子どものことを考慮すると、社会的・倫理的な要素を大いに包含していたり、法的整備が必要不可欠であったりすることがあまりにも多い。このような生殖に関わる医療行為の是非の判断は、メディカルプロフェッションとして学会が行うのではなく、最終的には立法府の判断が必要となる。現在自民党のPTで第三者を介する生殖補助医療を実施にあたっての法的整備がなされようとしていることは評価できる。
現在の制度下であれば、生殖医療全般や生殖医学研究に関する諸問題は、内閣府生命倫理専門調査会などで広く議論されることが望ましい。その結果、行為規制の枠組みができれば、法的諸問題については法制審議会で、医学的・倫理的諸問題については厚生科学審議会でより詳細に議論し、わが国の生殖医療や医学研究の方向性を決定すべきである。

(吉村 やすのり)

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