出自を知る権利について憶う-Ⅲ

子どもへの真実告知

今や世界的に子が提供者を捜す動きがみられるようになっている。子どもにとっては、知る権利と同様に知らされない権利も必要かもしれない。しかしながら、今や個人の遺伝情報を簡便に検索できる時代になっており、子どもが親子関係を疑問に思った時、自分でDNA鑑定を行うかもしれない。精子や卵子の提供を受けて子をもうけたクライアント夫婦が、実子という戸籍上の記載を隠れみのとして子どもに真実をつげないですむ時代ではなくなっている。夫婦で子どもを持ちたいと真摯に話し合い、配偶子の提供による生殖補助医療を受けることを決断し、子どもを産み愛情を込めて育てているとするならば、真実告知をすべきであるとの考えも理にかなっている。
2000年3月の段階で、日本弁護士連合会は「生殖医療技術の利用に対して法的規制に関する提言」を発表している。そのなかで、配偶子提供による生殖補助医療によって生まれた子が成人に達したり結婚しようとしたりした場合には、ドナ-の記録は本籍・住所・氏名に至るまで開示されるべきであるとしている。急速に広がっている生殖補助医療は、子どもの法的地位を不安定にし、人間としての尊厳を危うくする事態を生み出していることに対する強い懸念から、提供者に関するあらゆる情報は、生殖医療管理機関において一元的に管理されなくてはならないと提言している。
しかしながら、現実は理想とかけ離れたものである。子どもに出自を知る権利を保障するためには、クライアント夫婦による真実告知が前提となる。両親による真実告知がなければ、生まれた子どもによって出自を知ることはできにくい状況となる。スウェ-デンやアメリカでのAID症例における真実告知も1/4にすぎない。これらのデ-タはともに、いかに両親にとって子どもへの真実告知が難しいかを示している。
わが国においては、AIDをはじめとする第三者を介する生殖補助医療にかかわる医療関係者が、真実告知を子どもの権利として認識できるようになるにはかなりの時間を要すると思われる。しかしながら近年、養子縁組においても、里親が子どもにできかぎり早期に告知をするケ-スが増加している。わが国でも精子、卵子、胚の提供で生まれた子どもへの告知のためのガイドブックが作成されており、告知を支援する活動が今後ますます必要になると思われる。

※慶應義塾大学病院におけるAIDで生まれた子を持つ父親に対するアンケ-ト調査

(吉村 やすのり

 

 

 

 

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