がんと妊孕性―Ⅳ

卵巣の凍結のメリット

 今世紀に入り、卵巣の凍結保存も実施されるようになり、融解後の卵巣組織の移植による妊娠例が、報告されるようになってきました。腹腔鏡下に原始卵胞を多く含んでいる卵巣皮質を、1mm程度の厚さで切り出し、5mm前後の切片として、組織を凍結保存しておきます。卵巣の凍結保存には、緩慢凍結法またはガラス化法の両方が用いられています。治療が終了し、原病が治癒した後、凍結した卵巣組織を融解し、自己の卵巣や後腹膜に移植して、卵胞の成熟を促す方法です。
 卵子や受精卵の凍結保存では、卵子の数に限りがあるのに対し、卵巣組織の凍結保存では、組織を凍結するため、理論的には多くの卵子を得ることが出来ます。また卵巣刺激操作や卵胞成熟までの日数を待つ必要がないため、原疾患の治療の開始を延期させなくてもよいことが利点となります。さらに移植後、体外受精を実施しなくとも自然妊娠を期待することもできます。また成熟卵子を得ることが困難な思春期前の女児においても、卵巣組織の凍結保存は可能です。卵子凍結と異なり、月経周期が再開することが期待でき、女性にとっては、心理的にも、エストロゲンによる生理的な体内バランスを取り戻すことができるといった長所もあります。将来は、既婚女性を含めて、悪性腫瘍患者にとって、大変合理的な妊孕性温存のための医療技術となる可能性を秘めています。

(吉村 やすのり)

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