がんと妊孕性―Ⅴ

卵巣凍結のデメリット

卵巣組織凍結はこれまで報告されている出産例が、30数例に満たないことからわかるように、未完成の医療技術と言わざるを得ません。現在までに報告された症例では、移植後に卵巣が機能する期間は1年程度と短く、何度も移植手術をしなければならないこともあります。さらに、悪性腫瘍細胞の再移植の危険性も解決されていません。卵巣組織を移植する際に、移植する組織の中に悪性細胞が混入している可能性があります。病気が治癒しても、卵巣組織を移植することにより、再発の可能性が否定できません。ホジキンリンパ腫や、乳がん、肉腫などは、悪性細胞混入のリスクが低いと考えられおり、卵巣組織凍結の適応と考えれれていますが、白血病では混入のリスクが高く、移植は避けるべきとされています。
これまで出生児の異常は報告されていませんが、自然妊娠と比較できるほどの臨床例の報告みられていません。卵巣組織の凍結保存は、将来有望な妊孕性保存方法と考えられていますが、現時点では卵巣への転移が比較的少ないと考えられる、悪性リンパ種などの限られた疾患で考慮されるべきと思われます。治療開始までの時間が限られている、あるいは思春期前などの、特殊な条件下でのみ実施されるべきと考えられてます。現時点では、受精卵や未受精卵子の凍結保存の補完的、かつ臨床研究として実施されるのが望ましいと思われます。

(吉村 やすのり)

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