日本創成会議提言に憶う―Ⅳ

私見

この提言は、東京圏に住む高齢者が地方に移り住めるように環境を整えることの必要性を指摘したことは、大変評価できると思います。ただ、本格的に地方移住を進めるには、医療や介護制度の大改革こそが必要になります。現制度では、介護などの費用は地方自治体も負担しています。高齢者が地方に流入することにより、地方財政は破綻する可能性も出て来ます。自治体の負担を無くすくらいの改革をしない限り、根本的な前進は難しいと思われます。もう一つの課題は、広域で連携して具体的な対応策を考える時に、誰が主体になるのかというガバナンスの問題です。東京圏の医療・介護問題を考えるのに、東京都だけで考えても問題は完結しません。高齢者の地方移住が進んだ際に、東京圏と地方との不公平感をなくすことが必要となります。
 医療や介護を支えているのは、制度であり、人です。地方の急性期医療機関は、医師や看護師の不足により閉鎖され、医師の派遣も十分に実施できない状況にあります。高齢者の移住の前に考えなければならないことは、医療関係者の移住です。高齢者も地方に移住して十分な医療サ-ビスが受けられなければ、移住しようと思いません。現在の医師も若い人材と同様、東京を始めとする大都会に集中しています。この医師の偏在を是正しない限り、地方の医療の確立は望めません。医師が専攻する科の定員制や専門医を地方分散させるような大胆な政策が、政策が将来必要になるかもしれません。
病院の大規模な集約化を進めると同時に、医療関係者の待遇改善を計ることも大切です。地方で働いてくれる医師を増やさない限り、地方医療を守ることはできません。今後は益々女性医師が増加することになり、勤務環境の整備がより重要な課題となってきます。また医療体制もわが国独特の主治医制を止め、チ-ム医療に変換しない限り、女性医師の継続的な就労は不可能です。そのためには、患者自身の医療を受ける際の意識を変えることも大切です。
 日本創成会議の提言は、政策上の提言としては評価できますが、実施に際して人が生活する視点が欠けているように思われます。

(吉村 やすのり)

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