書名や目次などにエビデンスという単語を含む本の刊行点数が急増しています。先人の主観的な体験談よりも、客観的な根拠に基づいて判断を下そうとするデータ重視の姿勢がみてとれます。エビデンスは、元々ある治療法が科学的根拠に基づくことを説明する医学用語として使われることが多く、かつてはエビデンス本の大半が医療従事者向けの専門書でした。しかし、自己啓発書など専門書以外のエビデンス本がじわじわ増えています。

エビデンスという言葉が力を持ったきっかけは新型コロナ禍です。感染対策やワクチン接種を巡って情報が錯綜し、エビデンスという単語が連日メディアやSNSをにぎわしました。エビデンスという単語の検索量を数値化すると、2020年が突出して多くなっています。

最近では、育児書・教育書がエビデンス重視に傾いています。半面、情報源を十分に精査せずにエビデンスを信じてしまうことへの危惧も強まっています。周囲に信頼の置ける相談相手がおらず、親世代の知見は古くて頼りにしにくい、判断に迷った時に、指針となるエビデンスを求める気持ちが強まっています。
エビデンス本は玉石混交です。情報の裏付けとなる研究を明記したうえで、参考文献もしっかり載せている本もあれば、根拠の説明が不十分に見える本もあります。エビデンスを妄信することに警鐘を鳴らす書籍も増えています。エビデンスという言葉に確からしさを保証するお墨付きを見て妄信するのであれば、それは陰謀論と表裏一体ということになりかねません。
エビデンスはあくまで判断材料に過ぎず、決して依存してはいけないという姿勢も必要です。公的機関の情報を確認したりと、情報の信頼度を見極めて取捨選択するリテラシーが一層大切になります。
(2026年4月12日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)





