いわゆる「卵巣バンク」の設立に憶う―後編

 海外ではがん治療による卵巣機能廃絶を回避する目的で、がん治療前に一部の卵巣組織を採取し、凍結保存し、治療後に移植する医療が行われています。この卵巣移植は、移植後自然妊娠を期待できる点で有意義と考えられていますが、現時点では妊娠率が極めて低率であり、世界でも30数例の報告しかありません。患者が凍結保存で負担する費用は、1年間で10万円とのことですが、10年以上保存すれば100万円以上かかってしまいます。また卵巣を摘出する手術に保険適用はなされておらず、患者は手術費を自己負担しなければなりません。
 個人のクリニックで凍結保存する場合、患者情報の管理が十分にできるかが問題となります。さらに卵巣凍結は時として10年以上に及ぶこともあり、安全・確実な保存管理が可能かとの問題も残ります。卵巣摘出・移植を実施する医療機関は13施設とのことですが、その施設でがん治療医との密接な連携が取れているかも疑問です。がん治療後、凍結組織を融解して移植した際、がん細胞を再移入させ、がんが再発する危険性も除外できないため、現在海外では臨床研究として実施されています。臨床研究とするのであれば、厳密なガイドラインのもとで実施されるべきであり、無秩序に広がれば患者が不利益を被ることにもなりかねません。
 滋賀県においては、このようながん患者の卵巣凍結に対し、緊密な腫瘍専門医との連携をとり、厳密なプロトコールのもと公的助成が行われるようになってきています。今後は、日本産科婦人科学会や日本がん・生殖医学会で、実施に際してのガイドラインを早急に作製すべきであると思われます。

(吉村 やすのり)

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