こどもまんなかアクションに憶う

子どもや子育てを社会全体で応援する、政府が7月に始めたのがこどもまんなかアクションです。異次元の少子化対策の一環で、インフルエンサーと連携した情報発信やシンポジウム開催を通じ、子ども応援の機運を醸成する国民運動としています。
アクションは、2022年の出生数が80万人割れするといった状況への危機感から始まった少子化対策の一環です。内閣府の国際調査によれば、自国が子どもを産み育てやすい国だと思うかとの問いに、日本では61%がそう思わないと答えています。そう思うが少なくとも8割前後に達するスウェーデンやフランス、ドイツとは対照的です。若い世代のカップルが、子どもを持ちたい、育てたいと思えるような社会への変革なくして、少子化の克服はできないと思われます。こどもまんなかアクションを、少子化対策の文脈で国が国民運動として進めると、子どもを持つことを強制するように受け取られ、むしろ反発を招くことにつながります。
アクションは、2023年度に新たに始まった子育て世帯を優しく包み込む社会的機運醸成のための情報発信事業に含まれ、予算は2億円です。新規の情報発信事業の名目には、結婚応援をテーマにした動画の制作も盛り込まれていました。しかし、結婚や出産など個人の価値観に働きかける政策につて国は慎重であるべきだとの考えもあり、結婚応援の動画は、白紙に戻って考え直しています。
過去にも行政が個人の価値観に働きかける取り組みはありました。1989年の合計特殊出生率が戦後最低を記録した1.57ショックから間もない1992年、少子化問題への関心を呼び起こすために実施されたのが、ウェルカムベビーキャンペーンでした。2013年には、内閣府の少子化危機突破タスクホースで作成する方針を決めた女性手帳でも、国による価値観の押し付けが問題になりました。しかし、その後、未婚化は進み、結果的に合計特殊出生率は人口維持に必要な2.07の水準には遠いままとなっています。
人口政策と無縁な先進国はありません。しかし、今回の異次元の少子化対策は、国の経済規模を維持するために、少子化・人口減少対策を講じるという論理でつくられているようにみえるかもしれません。今子育てで苦しんでいる人にとって、国のアクションは、真に必要な取り組みと異なる次元のものに見えているのかもしれません。子育ては地域によって課題が異なることも忘れてはなりません。これまで少子化の背景には、未婚化・晩婚化があると考えられてきましたが、今や若い世代は結婚しても子どもを持ちたいと考えておらず、生涯無子率は増加の一途をたどっています。10年前より深刻な状況にあります。こども未来戦略方針に盛り込まれた政策は、いずれも重要ですが、より大切なことは、子ども・子育てにやさしい社会づくりのための、社会・国民の意識改革ではないでしょうか。

(2023年8月17日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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