カスタマーハラスメントの深刻化

顧客が理不尽な要求を突き付けるカスタマーハラスメント(カスハラ)が横行し、社会問題になっています。流通業界などの労働組合が加盟するUAゼンセンの調査によれば、約46%は過去2年で迷惑行為が増えたとしています。健康被害も深刻です。厚生労働省によれば、2013~2022年度に認定された精神疾患による労災のうち、顧客や取引先からのクレームや無理な注文が原因になった人は計89人いて、うち29人は自ら命を絶っています。
背景には社会情勢の変化があります。2000年代に食品や産地の偽装事件が多発し、企業に対する消費者の不信が高まりました。社会的な格差や高齢化などを背景に、不安や孤独感が強まり、他人への寛容さも薄まってきています。日常生活の中で、唯一他人に強く出られるのは客の立場となり、不満のはけ口が店員に向けられやすくなっています。
企業による過剰なおもてなし合戦も一因となっています。経済の低迷で企業間の競争が激化し、客離れやSNSへの悪評の書き込みを過度に恐れ、客を神様のように扱い、店側とのパワーバランスが崩れてしまっています。窓口に権限のない非正規労働者が配置され、クレームに謝罪するしかない状況が事態を悪化させています。
カスハラは、同じ相手に何度も嫌がらせをするという点でストーカー行為と共通しています。悪質な場合は犯罪と捉えるべきです。土下座の要求や脅迫的な言動などは、刑事責任を問われる可能性があります。国は対策に乗り出しています。厚生労働省は、2022年2月に企業向けの対策マニュアルを作成し、複数人での対応などを促しています。労災の認定基準に、カスハラを新たな類型として追加し、救済の強化を図っています。

(2023年9月13日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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