コロナで分かった医療体制の脆弱性

コロナ禍以前は、世界に冠たる日本の医療と自画自賛していた医療体制でありましたが、有事において驚くべき脆さを露呈してしまいました。全国の病院一般病床と感染症病床は約90万床ありますが、第5波のピーク時でさえ、確保できたコロナ病床は3万7,723床(4.2%)、うち重症者用は5,530床(0.6%)に過ぎませんでした。
ハード面とソフト面の2つの要因があります。ハード面として、第1に挙げるべきは、医療機関の規模が小さすぎることです。診療所はコロナ患者受け入れが物理的に不可能であり、ここに全国約30万人の医師のうち10万人ほどがいました。病院についても、感染エリアのゾーニングが難しい200床未満の中小病院が約7割を占めています。受け入れ先として十分な規模の400床以上の大病院は、1割に満たない状況です。
第2に病院の8割以上が行政命令の及ばない民間病院です。民間病院でも、他の先進国のように患者受け入れ命令が出せれば良いのですが、日本では要請するのがせいぜいです。第3に医療機関の機能分化、役割分担が不十分で、中小病院にも急性期病床が多いなど、医療資源が過度に分散されています。このため大病院ですら、専門スタッフやICUなどの医療設備が不足する事態となりました。
ソフト面としては、第1に大病院と周辺の中小病院の間に普段から良好な連携・協力関係が築かれておらず、スムーズな転院調整ができませんでした。他の先進国では、大病院にコロナ患者、特に重症者を集中させ、中小病院が大病院の一般患者や軽快化したコロナ患者を引き受け、大病院のコロナ病床の回転率を高めていました。第2に行政のガバナンス(統治)にも大きな欠陥がありました。医療法や感染症法には、感染対策や病床確保は都道府県が担うと規定されており、厚生労働省は、コロナ禍の有事にも平時と同じように都道府県に丸投げしていました。裁量権も主体性も乏しい都道府県が、遠い現場を指揮する無理な体制となってしまいました。
現在もハード・ソフト面ともに課題山積の状況です。都道府県が医療機関に補助金を支払って協定を結び、契約で病床を確保することになりました。また病床調整を機能させる地域ネットワークとして、都道府県に連絡協議会の設置を義務づけていますが、国が上から指示すれば直ちにネットワークができるとわけではありません。次の感染症拡大に対する抜本的改革の方針を得るには、しがらみのない超法規的機関が担当する必要があります。

(2024年5月2日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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