「わが国の少子化を考える―産婦人科医の重要性―」シリーズ―Ⅲ

社会の歪み
 都市では、著しく低い出生率や高い若者の未婚率、待機児童、子育てと仕事の両立が問題となっている、一方、地方では、就学や就職などをきっかけとした都市への若者の流出による出生数の減少や地域の活力の低下などの多様な問題を抱えるなど、その地域や人口規模によって少子化の状況は異なっている。少子化の状況に地域差が生じる要因としては、人口規模、地方の雇用情勢、育児期の女性の就業の困難さ、親からの支援、子育てや結婚に関する規範意識の違いなどが考えられる。また結婚・妊娠・出産・子育て支援について、地域によって支援体制も異なっており、地方独自の施策が必要となる。大都市に重点を置いた従来型のアプロ-チのみならず、各地域における少子化をいかに克服するかが課題である。
 少子高齢化により人口構成の変化は、社会にさまざまな歪みをもたらすことになる。出生率が上昇せず、女性の社会進出や若年者の就労率の改善がなされないままであれば、わが国の労働力人口は40年後に3分の2に減少すると考えられている。労働力人口が減少する一方で、医療費や年金などの社会保障費は増大していくことになる。長年続く低出生率が全国で過疎化や高齢化を助長させ、社会の継続可能性を危うくしている。人口増加を前提にしていた従来の社会保障制度が成り立たなくなる。
 近年の政権は、子育て支援策を打ち出し、待機児童の解消や子育てと仕事の両立のための働き方改革を積極的に進めようとしている。消費税引き上げによる社会保障の充実の財源の一部が、子ども・子育て支援に使用されることになったのも、その一環である。今後は若い世代の雇用を安定させ、結婚して子どもを産み育てやすい環境を整えることが大切となる。社会が、国が、子どもを育ててゆくという考え方に転換していかなければ、出生率の改善は到底望めない。人口の増加を前提にしていた従来の社会保障の仕組みをどのように変えてゆくかが、今後の大きな課題である。少子化の改善策が急務であるにもかかわらず、年100兆円の給付総額を誇る社会保障制度をもつ国で、対GDP比の1%にしか子ども・子育て支援財源をあてられるのは由々しき問題である。

(吉村 やすのり)

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