ブレスト・アウェアネスの提唱

乳がんは患者のほとんどが女性ですが、稀に男性も発症することがあります。10代後半からなる方もいますが、増えてくるのは30代後半からです。日本人の特徴として、40代と60代に発症のピークがあります。日本では、2019年に9万7,812人の方が乳がんと診断され、2020年には1万4,779人の方が亡くなっています。0期では5年生存率・10年生存率ともに100.0%ですが、4期になると5年生存率38.7%、10年生存率は19.4%に低下してしまいます。
主な自覚症状は乳房のしこりや乳頭からの分泌物などです。最近、乳房を意識する生活習慣としてブレスト・アウェアネス(気づき)が提唱されています。ブレスト・アウェアネスには、自分の乳房の状態を知り、変化に気をつけ、気づいたら医療機関に相談する、定期的に乳がん検診を受けるなどが含まれます。
原因がはっきりしているのは、特定の遺伝子異常に伴うタイプのもので、家族や親戚に乳がん患者が多い方は注意が必要です。それ以外は、生活習慣や体質など様々な要素が組み合わさって発生すると考えられています。乳がんだけに限りませんが、肥満や飲酒・喫煙もがんの発症リスクを高めます。また女性ホルモンにさらされる期間が長いほど、発症リスクが高まることが知られているため、初経が早い、閉経が遅い、出産年齢が遅い、未出産などの方はリスクが高くなります。2年に1度の定期検診が推奨されており、40歳以上になると自治体実施の乳がん検診が受けられます。
治療は、基本的には手術と放射線療法、薬物療法の組み合わせになります。タイプによって大きく変わるのは薬物療法です。発症に女性ホルモンが関わるホルモン受容体陽性の患者さんには、ホルモンの働きを抑えるホルモン療法が効果的です。特定のたんぱく質HER2が発症に関わる患者さんには、HER2をブロックする分子標的薬を使った治療が中心になります。2種類あるホルモン受容体とHER2の全てが陰性のトリプルネガティブ乳がんの患者さんには、抗がん剤治療が基本となります。最近は免疫チェックポイント阻害薬という新しい仕組みの薬も使われるようになりました。
術前・術後の薬物療法の主な目的は、体のどこかに潜むがん細胞を根絶して再発を予防し、より長い生存期間を目指すことです。手術前の薬物療法には、転移・再発を防ぐことに加え、手術が困難ながんを手術できるようにしたり、がんを小さくして切除部分を少なくしたりする効果もあります。また、薬物療法の効果を判断しやすくし、術後の治療方針を決めるために行われることもあります。

(2023年10月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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