予見できた8かけ社会を変えられなかった現実

バブル崩壊後に企業が新卒採用を減らした1990年代後半から2000年代前半の就職氷河期に社会に出た世代、ロストジェネレーションは、非正規で働く割合が他世代と比べて格段に多くなっています。低賃金と不安定雇用を強いられたロスジェネは、結婚や子育てをする力を奪われ、出生率は2005年に過去最低の1.26まで低迷しました。第2次ベビーブームの団塊ジュニアを含むロスジェネ世代が結婚して子どもを生めば、第3次ベビーブームが来ると目されましたが、到来することはありませんでした。
最大の危機かつ最後のチャンスは、ロスジェネを生んだ時期でした。女性が男性並みに働くことを社会は受け入れず、非正規雇用を黙認してしまいました。年功序列や終身雇用など会社に全てを委ねるような日本型雇用は、高度成長を支えた原動力とされてきました。しかし、バブル崩壊後には、新規採用を絞り込んで非正規雇用を増やす一因になってしまいました。
今から約40年後、ロスジェネ世代を含む未婚・離別の単身女性の約半数が老後に生活保護レベル以下の収入になってしまいます。単身の高齢者を支える現役世代は細り、介護や医療の担い手は絶対的に不足することになります。8がけ社会の負の側面が大きく広がる未来が迫ってきています。8がけ社会は突然現れたのではなく、警告音は何度も鳴っていました。
2014年に、日本創生会議は全国の約半数の896自治体が消滅可能性都市となることを発表しました。消滅可能性都市とは、20~39歳の女性が5割以下に減る自治体のことを意味します。10年がたち、衝撃的な予測は未来を変えることはありませんでした。10年たっても、20~39歳の女性の3~4人に1人は東京圏におり、東京の一極集中は加速しています。東京一極集中の是正を目的に、地方創生交付金や都内の大学の定員制限などを打ち出しましたが、歯止めはかかりませんでした。
避けられない未来を見据え、軟着陸する方策を練る時間はありました。しかし、逆に一つの世代を丸ごと不安定な状況に陥れ、次世代を育む力を削ってしまいました。異次元とされる少子化対策により、子どもを増やすことができたとしても、2040年には間に合いません。少子化対策をすると同時に、8がけ社会を乗り越える方策を探ることが必要になります。困難な二正面作戦をこの国は求められています。その際に決して忘れてはならないのは、性別、世代を問わず、全ての人が生きやすい社会を作ることです。一部の人々の犠牲の上に成り立つ社会は持続可能性を失います。

(2024年1月9日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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